お兄ちゃん、てんかんの発作で病院に運ばれたの知ってる?
というアラ菜ちゃんからのメッセージを確認したのは、職場の休憩時間だった。休憩に入ってすぐスマホをチェックすると、メッセージが来ていたのだった。
退院して環境が変わったせいで軽い発作が出たのかな?
本人も周りもびっくりして、病院に駆け込んだりしたのかなぁ。
と、私は思った。
アラ菜ちゃんにメッセージを返信し、何回かやり取りするとどうやら事態は思ったよりも重かったらしい。
アラヤちゃんは救急車で手術を受けた県立病院に運ばれたという。
アラ菜ちゃんもそれ以上は詳しいことを知らないというので、仕事帰りにアラヤちゃんの実家に立ち寄り、私はアラ父母から何があったのか、を訊いたのだった。
曰く。
それはAM10時頃、アラヤ実家でアラヤちゃんとアラ母がコーヒーを飲みながらのんびりしていた時だったそうだ。
それまで普通に話していたアラヤちゃんが、突然ピタッ!と動きが止まり、続いて右手がガクガクと痙攣し始めたのだという。
アラ母は発作が起きた!とは思ったが、しばらくすれば治まるだろうと様子を見ていたが、痙攣はおさまるどころか、右手から右足に広がり、顔にも広がっていったのだという。
※顔の痙攣は、目を強く閉じたり開いたり、口角を吊り上げたり弛緩したり、という現象が現れる。
椅子に座っていたアラヤちゃんが転がり落ちて頭を打ったりしたら大変だと、背中からなんとかアラヤちゃんを支えたアラ母は、そのままゆっくりズルズルと床に座り込んだそうだ。そして、アラヤちゃんを床に寝かせると、歯をガチガチと鳴らす痙攣発作も起こしていたので、舌をかまないようにタオルをかませたらしい。
※その後医師に言われたそうだが、今はタオルをかませるとそれを飲み込んで窒息のリスクもあるので、そういった処置はしなくて良いそうです。
そのうちアラヤちゃんは全身が痙攣してしまい、手足をバタつかせて暴れてしまい、全力で振り上げる手足をダイニングテーブルに思いっきりうちつけるので、擦り傷や打ち身が時間と共に増えていった。アラ母はそんなアラヤちゃんの手足を抑えて何とか発作が治まらないか、ただそれだけを待っていたそうだ。
自分が手足を抑えるのを止めたら、アラヤちゃんが大けがをしてしまう。
そう思うと、暴れるアラヤちゃんを置いて救急車の手配をするどころではなかったと言う。
そうこうしているうちに、外出していたアラ父が帰宅した。
お父さん!
救急車!!!
そう叫ぶアラ母。
ただならぬ様子に慌てて玄関からリビングに入り、てんかんで激しく身体を動かすアラヤちゃんを見たアラ父は事態を察し、すぐに救急車を手配したそうだ。
そして、アラ父が救急隊に事情を説明し、アラヤちゃんは手術を受けた病院へ救急搬送されたということだった。
アラヤは……もう元のアラヤじゃなくなっちゃったわ……。
もう、あの子は元に戻らない。
あのうつろな目つきは、もう私たちのことも分からなくなってしまったに違いないわ。
そう涙ながらに言ってくるアラ母に、
先生は何て言っていたんですか?
いやあ、最初対応してくれた先生は
『え!? お酒を飲んだんですか? てんかんにはお酒は良くないのに……。』
って言っていたんで、バツが悪かったんだけど、そのうち細野先生が出て来てくれてね。
ミスター淡々、病院にいてくれたのかε-(- -*)ホッ
※ミスター淡々こと細野医師は、週に2回だけ県立病院に来ているので、常駐しているわけではないのである。
『あー、発作出ちゃいましたか。まあ、しばらくしたら元に戻りますよ。』
とケロリと言ってたんだよね。
ただ、お母さんじゃないけど、処置が終わって落ち着いたアラヤと面会できたけど、目は虚ろだし身体は動かせないみたいだし、こちらのことも認識できないみたいだから、本当に元に戻るのか、不安になるよ。
幸か不幸か、私はその場に居合わせなかったので、アラヤちゃんがどんな状態だったのかはわからない。
ただ、専門の医師である細野医師がそういうのだから、きっと元に戻るのだろう。
アラ母は悲観的な性格な部分があるので、多分最悪の事態しか今は想定できないでいるのだろう。だから私の言葉が届くかわからないが、
細野先生が元に戻るというんだから、大丈夫でしょう。
元に戻りますよ(^^)
アラヤくんが回復するのを信じて、私たちは待っていましょう。
と私はアラ母に対して言っておいた。