さあ、県立病院に行こう!と思ったその時に、その県立病院から
「急患が立て込んでいるから、受診予約を後日にしてくれ。」
と言う電話を受けたアラ母。
アラ母「ええ、ああ。はい……。そうなんですか?」
アラ母「でも、こちらも……。息子も早く診てもらいと……。」
頑張れアラ母!
ファイトだアラ母!!
負けるなアラ母!!!
アラ母「……わかりました。少々お待ち下さい。」
再び受話器を手で抑えたアラ母が、こちらを見てこう言った。
アラ母「病院の人がね、アラヤと直接話したいって。」
?
そうくる??
本人、脳腫瘍で発話に難ありなんですけど!???
当時のアラヤちゃんは、知らない人との電話での受け応えを嫌がっていた。
言葉が出てこない上、電話と言うのは特性上表情などのジェスチャーが通用しない。
だから基本的に電話が掛かってきても、身内からしか出ない状態になっていたのだ。
※というか、身内は大体LINEの文字情報でのやり取りをしていた。
とは言え、仕方がないので電話に出るアラヤちゃん。
アラヤ「代わりました。……ええ、はい。でも今日だと約束しました。」
アラヤ「じゃあ予約を動かすといつになるんですか?」
アラヤ「〇日って、それ何日後ですか?」
※アラヤちゃんは時間や日にちの計算がとても苦手になってしまった。
※9時の6時間後は何時?というのが、本当に計算できないのだ。
アラヤ「2週間!? 2週間も先になるんですか!??」
その時、アラヤが吼えた。
「辛いんですよっ!」
上手く言葉に出来ない失語症があるせいで、言いたいことが上手く言えないアラヤちゃん。
相手に言いたいことの十分の一も言えない彼が、電話口の向こうの相手に切実に訴える。
アラヤ「言葉は出てこないし、右の手足は動かしづらいから足を引きずるんですよ! 顔も痺れて感覚がなくなることがあるんです!」
今までずっと辛い思いを我慢して、腫瘍が悪性だと知ってからも、気丈に振舞っていたアラヤちゃん。
ショックを受けて涙声になることもあったお母さんや、茫然としてアラヤちゃんを励ます気力さえ失った私を、逆に励ましてくれていたアラヤちゃん。
周りの人に配慮して、辛い素振りを隠していた彼が、初めてその心の中の感情を明かした時じゃないかと思う。
そう、私も最初の頃は努めて淡々と話すようにしていたし、きっと大丈夫だろうと楽観的にとらえるようにしていた。
でも、電話で「悪性腫瘍だ。」と告知された時は、驚いていただろうアラヤちゃんの横で、私もとても動揺した。
誕生日のお祝いのお寿司を買いに行かなきゃね、と出掛ける支度をしに自室に籠ってから、声を押し殺して号泣したものだ。
ただなんとなく漫然と続くと思っていた未来が、突然もうなくなるかもしれないと言われ、一瞬にして絶望感が押し寄せてきた。
アラヤちゃんが使っていた食器、好きだったもの、口癖、そういったものを思い出したり見たりすると涙が出そうになる。
アラヤちゃんが死んでしまったら、私はその悲しみを抱えながら独りでこの先も生きていくのか、そう考えたら絶望が津波のように何度も押し寄せてきた。
アラヤちゃんと一緒にいたいが、一緒にいると病気のことを意識してしまう。
一緒にいたいのに一緒にいたくないという矛盾した気持ちのやりように困惑してしまったのだ。
アラヤちゃんの必死の思いが通じたのか、
「急患が立て込んでいるので予約時間通りには受診できませんが、予定通り病院に来て下さい。」
と病院の人に言われ、電話は終わった。
何なんだよ、一体……(o´Д`)=з
知らない人と電話で話す、という苦行を終えたアラヤちゃんを始め、精神的にヤキモキさせられ、病院に行く前からどっと疲れた一同なのであった。
ちなみに、失語症について割と分かりやすく報道してくれたのがこちら↓
割と長いけど、失語症について良く分かりました。
そして切ない気持ちになりました。
アラヤちゃんに起きていることは、これなのか、と。