抗てんかん薬であるビムパットを、最初の1日100mgから3倍の300mgにしても、てんかん発作の発生頻度は変わらなかった。
相変わらず毎日のように起こるし、1日に何回か起こる日もやはりあった。
とはいえ、再入院した日のような1時間以上続くような思い発作ではないからだろうけれど、次の診察日に主治医から言われたのは、
300mgに増やしてからまだ1週間くらいしか経ってないので、もうちょっと様子を見ましょうか。
ということだった。
先生、あの、てんかん発作が多いのは、腫瘍が大きくなったり変化してたりするわけではないのでしょうか。
至極もっともな気がかりを、アラ父が三谷医師に訪ねた。
可能性として、なくはないです。
ただ……
とちょっと溜めてから、三谷医師は診察室のディスプレイに脳のMRI画像を映しながらこう言った。
今日撮ったMRI画像と、手術直後のMRI画像を比べてみても、特に腫瘍が増大しているような形跡はありませんでした。
むしろ、摘出した腫瘍に潰されていた脳室が解放されて開いてるのが見て取れるので、脳としてはむしろ楽になった状態です。
※脳室と言うのは脳の中のお水の入った小部屋とのことで、手術前はそれが腫瘍によりギューッッッと押しつぶされていたらしい。
その上で、三谷医師はもう手術で摘出できるところは摘出してしまっているので、これ以上外科的なアプローチ(手術で腫瘍をさらに摘出する)をすることは無理であると言った。
そして、摘出した箇所に対してせり出してくるような腫瘍があれば、今後追加で摘出手術をすることはできるが、だいたい脳腫瘍は脳の奥へ奥へと浸潤していくので、現状では再手術は難しいだろう、と言われた。
だからと言って何もせず放置してしまっては、また1年後2年後に「ああ、腫瘍が大きくなりましたね。」という風になるのを待つだけなので……、ということで
広く全体的にしみ込んでいる腫瘍に対して効果があるだろうお薬・テモダール(テモゾロミド)をやっていくことをお勧めします。
※「テモダール」のジェネリックが「テモゾロミド」という名前のようです。
脳腫瘍に効果があるだろうお薬、つまりは抗がん剤を勧められた。
そして、抗がん剤と組み合わせて放射線治療を実施するかは悩ましいところなのだ、と言われた。
理由としては、放射線は間違いなく効果がある反面、脳の高次機能を下げるのも間違いない事実なのだそうだ。
脳の高次機能障害としては、次のようなものがあるらしい。
・注意障害
集中力が続かない。気が散りやすい。複数のことを同時にできない。・記憶障害
病気やけがの前のことは覚えているのに、新しい出来事を覚えられない。・失語
言いたい言葉が出てこない。聞こえていてもその意味が分からない。・遂行機能障害
段取り良く物事を進めることができない。優先順位がつけられない。・半側空間無視
目では見えているのに、片側に注意がいかないため、見落としたり、ぶつかったりしやすい。・感情と社会的行動の障害
感情や欲求のコントロールができない。やる気が起きない。人柄が変わってしまう。
これらのリスクを考えた場合、いつ放射線治療をするのかは判断に迷うのだ、と三谷医師は言った。
そして、放射線治療についての三谷医師の見解を述べるのだった。