リハビリ専門病院に転院するのに、摘出しきれなかったガン細胞は通院で薬による治療をすることになると言われた。
リハビリ専門病院に入院しながら、県立病院に通院すると言うのか???
と、私が思ったのと同じように、アラ父も同じことを思ったらしく、
あのー、先生。その薬の治療ですがね、それはリハビリ病院からこちらに通院するんでしょうか?
と訊ねたのだった。
いえ。まずはリハビリ専門病院で集中的なリハビリをやって、それが終わったら通院での抗がん剤治療をやることになると思います。
えー……っと、リハビリしながらでも早めに薬での治療をやらなくていいんでしょうか?
もっともな意見をアラ父が細野医師に進言した。
リハビリと抗がん剤治療を並行して実施し、がん細胞が増えるのを抑えるために少しでも早いうちに抗がん剤を投与した方が良いのではないか、と。
鹿角さんの脳腫瘍は、急激に大きくなるタイプではないと思われます。
おそらく数か月から数年かけてこれだけ大きくなっていると考えられます。
それは、病理検査の結果を見てみないと分かりませんが……。
グレードが2か3の比較的ゆっくり大きくなるタイプであれば、1~2か月の集中リハビリが大きな影響を与えるとは考えにくいです。
はぁ……。
それよりも、術後すぐの今がリハビリの効果が最大限出やすいので、今のうちに集中的なリハビリをやることが重要です。
術後2~3か月経った後にどれだけリハビリをやっても、その回復量は術後すぐに比べればどうしても落ちてしまいます。
なんか、成長期の学習が重要、みたいな感じだなぁ、と思った。
言語能力(話す力)は5~6歳までがピークで、それまでに会話の機会が少ないとその後にどれだけ訓練しても言語能力は伸びにくいらしい。
視力は6~8歳までに適切な視覚的刺激を与えておかないと、その後どんなに刺激を与えても視力は向上し辛いらしい。(片目の視力が正常だと、もう片方の目の視力に異常があっても気付きにくく、適齢期を超えて異常に気付いても中々視力の向上は難しくなるらしい。)
そんなことをぼんやりと知っていたので、リハビリにも適齢期のようなものがあるのだろう、と理解した私は納得できた。
もしできれば、こちらの病院でリハビリをしていただければ、抗がん剤治療も同時にできるのかなぁ、とそう考えてしまいまして……。
それは制度上難しいです。
うちの病院は回復期リハビリ専門病院ではないので、リハビリの実施時間に上限があります。
それに、うちの病院は専門的な『治療』を担当しているので、リハビリのための患者さんにベッドを使われると、その分高度な治療を必要とする患者さんが受け入れられなくなってしまうんです。
それぞれの病院に役割があるのをご理解下さい。
なるほど。
おそらく病院ごとに法的な役割というのが割り振られていて、リハビリ専門病院では制限がないか、制限があってもかなりの時間リハビリが出来るのに対して、『治療』を目的とした病院でのリハビリは、その実施時間がいちじるしく制限されているのだろう。
リハビリ専門の病院の方が、回復が大きいということなんですね。
専門の病院の方が1日に出来るリハビリの時間が長いので、その分回復量も大きい、と言えます。
アラ父母が「ああー……。」と納得した声を出していた。
そうして、みんなが県立病院でのリハビリではなく、専門病院に転院することに納得したところで、「では実際どこのリハビリ専門病院に転院するのか。」の話し合いになるのであった。
では私はこれで失礼させてもらいますので、後は岸田さんとよく話し合って転院先を見つけて下さい。
リハビリ専門病院の選定に医師の見解は必要ないらしく、細野医師は診察室から退席し、岸田さんと私たちの話し合いが始まるのであった。