話はちょっと戻って入院前のこと。
私が仕事の都合でどうしても日程をズラせない講習を受けに行くため、長期出張に出掛けた日のことだ。
それじゃあ言ってくるね。
手術の日にはまた会えるから、何日か独り暮らしだけど頑張ってね。
と告げた。
そして軽くハグをした後、アラヤちゃんから握手を求めてきたので、それに私は応じた。
よく見るとアラヤちゃんの目にはうっすらと涙が溜まっているような気が……。
名残惜しそうに握手した手をブンブンと振り、握手の仕方が恋人つなぎになって、その握手の力がぐぐっと強くなってから、意を決したように手をほどいたアラヤちゃん。
行ってらっしゃい。
気を付けてね。
入院と手術、やっぱり不安だよね……。
基本的に気丈だった。
基本的に明るく振る舞っていた。
基本的に生きることに積極的な姿勢を見せていた。
基本的に怖がる素振りは見せていなかった。
だけど、やっぱり不安だろう。
完治することはない病気。
脳腫瘍と言う性質上、身体に起こった異変が回復する見込みは低い。
長期的に見れば、むしろもっと不自由なことが増えていくのだろう。
手術にもリスクがある。
頭蓋骨を取り外し、脳を摘出するのだ。
その恐怖。
その不安。
本人にしか、その怖さは分からない。
本人にしか、その辛さは分からない。
私に出来ることは、出来る限り淡々と、そして出来る範囲で明るく振る舞うことだった。
じゃ、講習頑張ってくるね!
そういって手を振りながら、車で自宅を後にした。
寂しさと不安を抱え、独り恐怖と戦うアラヤちゃんを残して……。
そして迎えた手術当日。
よっ♪
病室の待合場所に行くと、先に来ていたアラヤちゃんがかるーく挨拶をしてきた。
ε=\__〇_ ズコー
……あの日の名残り惜しそうな別れは一体何だったんだろうか……(ㅍ_ㅍ)
ここまでの流れで充分お分かりだろうが、実は私はアラヤちゃんの手術当日、手術室に向かうアラヤちゃんを見送ることができたのだった。
県立病院では、血縁関係ではない私を診察で拒絶することがなかった。
それは手術の立ち合いでも同じだったのだった。
入院の説明と手続きに同席するのも、ご両親ではなく普段一緒に生活している「友人」である私でOKと言ってくれた。
さらに、なんと手術中に何かが起きてしまった時の治療方針の決定人に、私を指名するように勧めてくれさえしたのだ!!!
手術中に何かトラブルがあった時、最悪の場合「延命治療をするかしないか。」を決める人に、私を指名出来る上に、そうするように勧めてくれるなんて、なんか
恐ろしくカルチャーショック
だったんですけど!?( ゚Д゚)
今って法的に他人が治療方針決定者になれるもんなの!?
実の親を差し置いてなれるもんなの!?!?
いや、勧めて下さるのはありがたいのですが、さすがにやはりここはお父さんにお願いするのがスジだと思うので……。
と辞退しようとする私に、手続きの説明をしてくれた看護師さんは、
「普段離れて暮らしている親御さんより、一緒に生活して気持ちも価値観も知っている人の方が良いと思いますよ。」
と言い、アラヤちゃんも
圭ちゃんがなれるんなら、圭ちゃんがなって?
と言ってくれたので、私が手術の際に何か起きた場合の治療方針決定人になることになったのだった。
手術室に入るだいぶ前に待合場所に着いてしまった私を、
よっ♪
と、思いの外気楽に迎えたアラヤちゃん。
その気楽さに拍子抜けした部分はあったけど、恐怖心を克服したのかもしれないし、恐怖心を隠す余裕が出来たのかもしれないし、あるいは手術に対して腹を括ったのかも知れない。
とにかくアラヤちゃんはとてもあっさりしていて、その後やって来たご両親ともお互い手を上げ合ってかるーく挨拶し、しばらく談笑したのだった。
リラックスした雰囲気の中みんなで談笑していると、
「鹿角さーん。手術室に行きますよー。」
と呼ばれ、アラヤちゃんは楊枝でも咥えながら
「ちょっくら行ってくらー♪」
的なノリで手術室へ向かって行ったのだった。
ってねえ!!!
ストレッチャーに乗せられてガラガラ手術室に向かうアラヤちゃんに、
「頑張ってね!(´;ω;`) 大丈夫だから!!。゚(゚´Д`゚)゚。 きっと良くなるから!!!๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐」
ってやるんじゃないの~~~~!?!?!?!?
って思うくらい、あっさりとした手術室へINだった……w