うちの彼氏は脳腫瘍19

脳腫瘍奮闘記
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脳腫瘍奮闘記の目次はこちらから(^^)
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↑の続きです。

前回アラヤちゃんの腹痛騒動でバタバタした後、アラ母からある提案をされた。

アラ母
アラ母

変な誤解をしないで欲しいんだけど、一度きちんとみんなで写真を撮っておきたいの。

いいかしら?

と。

アラヤちゃん、ご両親、そして牛角うしづの家(アラヤちゃんの妹家族)のみんなで写真を撮っておきたいと言うのだ。
変な誤解をしないで、と言ってたけど、

ぶっちゃけ、万一の時の葬式用の写真だよね(^^;

とは言え、悪性脳腫瘍と診断されているのだから、いざという時の写真が欲しいと言うのはわかる。
アラヤちゃんもそれは分かっているし、どうせだったらまだ元気そうに見える写真を早く撮っておきたかったのだろう。

アラヤちゃん
アラヤちゃん

いいよー

と応えていた。

そしてアラ菜ちゃんに連絡し、牛角家の面々に鹿角家実家まで来てもらって、みんなで写真撮影。
家族同然の付き合いをしている私もちゃっかり入って、7人全員で写真撮影をした。

↑こんな感じで写真撮影。
ちなみにアラヤちゃんはお坊さんなので、僧侶の正装にて撮影に臨みますた(^^)

こんな感じでの写真撮影はやだなぁ、と思いつつも、
「もしかしたらもう元気に見える姿での写真撮影は出来ないかもしれないからなぁ。」
と複雑な気持ちが入り混じったのを覚えている。

 

そしてとうとうMRI検査の結果を聞きに行く日。
アラ父はまだ術後の経過が万全ではないので受診には同席せず、アラ母と私だけが受診に同席することになっていた。
鹿角家実家へアラ母を迎えに行き、そこから3人で県立病院に行く手はずになっていた。
時間に余裕を持って鹿角家実家に到着したので、病院へ出発する前にアラ父も交えて4人でお茶を飲むことになった。
その時、アラヤちゃんのご両親からこんなことを言われたのだった。

「手術は受けなくていいんじゃないだろうか。」

と。

アラ父が言うには、ご近所で咽頭がんと診断された方がいるそうだ。
手術で治すことを医師からは提案されたが、手術をするとがん組織と一緒に声帯も取り除くことになるため、今後声が出せなくなってしまうと言われたそうだ。
その方は色々調べた結果、手術を受けることを拒否し、抗がん剤と放射線治療だけで咽頭がんを完治させたと言う。

だから、正常な脳組織にダメージを与えてまで開頭手術をしなくてもいいんじゃないか、とご両親は言っていたのだった。
手術により正常な細胞にダメージを与えてしまい、その結果現状よりも症状が重くなることを心配しているようだった。
そして、この時の話しぶり感じたのだが、ご両親はアラヤちゃんの脳腫瘍が完治すると勘違いしているようだった。
具体的にはどのようなことを言っていたか忘れてしまったが、
「ちゃんと治れば寿命を全う出来るんだから。」
のようなことを言っていた気がする。

ついでに言えば……。
ご両親は忘れている。
三谷医師が手術は絶対に必要と言っていたことを。
そしてなぜ手術が必要なのか、その理由を。

摘出できる腫瘍の量が多いほど生存年数が伸びやすい。
確かに手術をして腫瘍と共に正常細胞を取り除いてしまうと、今よりも言葉の出辛さや右半身の動かし辛さが強くなるかもしれない。
だけど、それよりもアラヤちゃんは生存年数を優先したいと言っていた。
そして、手術は腫瘍の量を減らすことも目的でもあるが、摘出した腫瘍を病理診断することで、どのタイプの脳腫瘍なのかを調べないといけない
世の中に抗がん剤は数多くあるけれど、がん細胞にもタイプがいくつかあるし、場所によっては効果の出ない部位もあるし、がん細胞のタイプによっては効果のほぼない抗がん剤もある。
だからこそ、手術をしてどのタイプの抗がん剤が効果があるかを確認しないと、抗がん剤治療自体進められない。
特に脳という組織は、人体の中でも特に重要な器官なので、抗がん剤がかなり限られてしまうのだ。
※毛細血管から脳神経細胞に栄養などが渡される際、条件が整った物質以外細胞内に取り込まれないように、脳の毛細血管は特殊な構造になっている。
※そのため、他の臓器のがん細胞には取り込まれる抗がん剤を使用しても、脳腫瘍の場合は毛細血管のいわば「門番」に弾かれて、がん細胞に抗がん剤が届かないのだ。

手術に絶対安全はない。
全身麻酔を掛けるだけで、リスクはある。
だから、親としては心配なんだろう。
私も親から手術などを反対された過去がある。
だから分かるのだけど……。

「せっかく自分が手術を受け入れられるようになって来たところなのに、気持ちを揺さぶるようなことは言わないで欲しい。」
アラヤちゃんは、辛そうに細々とした声で絞り出すように言った。

ご両親は気丈に振舞うアラヤちゃんしか見ていないから仕方がないが、一緒に生活していた私には色々と迷い、苦しみ、悲嘆に暮れる姿を見せていた。
受け入れたくないけれど受け入れるしかない、脳腫瘍という病気を抱えている現状。
話したい、伝えたいことがあるのに、自分の言葉では言いたいことが相手に伝わらない現実。
手術を受ければリスクもある。でも手術を受けなければ残された時間は短いまま。
だから手術を受けざるを得ないのだ、とアラヤちゃんがようやく受け入れ始めていた時に、ご両親の「手術は受けなくてもいいのではないか。」という言葉。
ようやく寝付き始めた乳児を、酔って帰ってきた旦那が大声で揺さぶって起こしてしまったような衝撃。そんな衝撃が私の頭を突き抜けて行った。

アラ母は「そんなことは言ってないよ。ただ、手術以外を選択してもいいんじゃないの、って言っただけよ。」と幼子に言い聞かせるように言った。

ご両親がアラヤちゃんを思う気持ちに嘘偽りはない。
だけど、それが結果としてアラヤちゃんの心を傷つけてしまったのだ。
それを傍で聞いていた私は、やはり辛い悲しい気持ちになった。

おそらくご両親は、脳腫瘍の重大さをきちんと認識していない。
このことは、今後もしばらくアラヤちゃんを苦しめることになった。
ご両親も、そしてご近所で付き合いのある方たちも、みんな大体70歳以上である。
当然、がんを経験している人もいる。中には帰らぬ人になったケースもあるが、元通りの生活を送っている人もいるそうだ。
ご両親はその「元通りの生活を送っている人」と同じように、アラヤちゃんもなるに違いないと謎の確信を持っていたのだ。
だから、「元通りの生活になるのにわざわざリスクの大きい手術を選ばなくてもいいじゃないか。」というような軽いニュアンスで言ってきたのだ。
※伝わらなかったらごめんなさい。でも、その場にいた私としても、脳腫瘍についての情報を冷静にしっかり集めた上での提案というよりは、「手術しなくてもがんが治った人がいるんだから、わざわざ危険を冒してまで手術を受けなくてもいいんじゃない?」という何気ない言い方だったのです。

医師の説明を理解する力、脳腫瘍に関しての情報収集能力、集めた情報の中で辛い情報も弾かない冷静さ。
そういったものの違いが、ご両親と私たちの間には深い溝のように存在していた。

アラヤちゃんは言葉で表現できないだけで、物事を理解し咀嚼し想像する能力はちゃんと残っている。
でも、自分の思いを上手く言葉に出来ない。
アラヤちゃんはそんな自分の状況をこんな風に言っていた。

「言おうと思う言葉を頭の中で掬い上げるんだけど、指の間から砂がこぼれるようにどんどん言いたいことが流れて消えてしまう。だから言える言葉がほとんど残らない。」と。

この時も、きちんと手術の必要性を伝えたかっただろうけれど、アラヤちゃんの口から出たのは、
「手術は受けるの!!!」
という怒ったような半分怒鳴るような言い方だった。

ご両親もそれ以上はその話を続けることはせず、時間も来たので私たちは病院に向けて出発したのだった。

↓に続きます。

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