現状で言葉の出にくさがまだ少し残っているんですが、何かしらリハビリをすることは可能なのでしょうか?
これもアラヤちゃんが気にしていた……というより、言葉がスムーズに出ないことに苛立っており、本人がリハビリを受けたがっていたので私が訊いたのだ。
それに対して三谷医師の回答はというと……。
えーっとですね、現状の鹿角さんの喋る能力は、リハビリ的にはけっこう回復していると言えてしまうレベルなんです。
なので、ここまでできてしまっていると、『専門的なリハビリ』というよりは『場数』が重要になってきます。
そして、三谷医師は真理を突いてきたきた。
家族って、案外喋らないでしょ?
っていうか、けっこうツーカーで通じちゃうでしょ?
と。
確かに家族や私たちだと、何を言おうとしているのかが動作だったり表情だったり前後の行動で予測がついてしまうので、
「あれ取って。」
と言われれば、
「あれって何?」
とはいちいち確認することなく、その『あれ』を取って渡してあげてしまっている。
そういう意味では、私たち家族や近しい人間は、アラヤちゃんのリハビリに非協力的であると言えるかもしれないのだ(^^;
家族だと、あれ・これ・それ、で通じちゃうから、そうはいかない人たちで、気の置けない仲間がいれば、そういうところに積極的に顔を出すのも一つの手だと思いますよ。
『自発的に話す。』というスイッチを入れる頻度が低下しているため、そのスイッチを入れるのが難しくなっている。だから、まずはそれを増やすことが必要なのだと言われた。
そして、会話と言うのは複雑なんだよ、という説明をされた。
私たちは脳に障害がないので何気なくやってしまっているが、『言われたことを受け止める。』そして『それについて返す。』というのは脳機能としては複雑な工程らしい。だからこそ、その回数を増やすようにするとリハビリとしては良いらしい。
現状で普通のリハビリを受けても、満点になってしまうのだ、と言われた。
満点でなくても、かなりできてしまう。
出来ないことをやらないと、リハビリにならない。
ははは……(苦笑)
苦笑いするアラヤちゃん。
……あはは(苦笑)
そうなのよ。
だから、『あー、言わなきゃ。』『伝えなきゃ。』を頑張って言うことが出来て、それで初めてリハビリになるわけだから、そこを頑張らなきゃいけないんだよね。
普通のリハビリよりも、そういったことをする方が大事だし、かえってそういうことの方が無理なく続けられると思う、と三谷医師は付け加えた。
ただね、相手が事情を知らないと
『なんだよ、こいつ。何も喋らねーし。』
ってなっちゃうから、
『実はこういう事情で言いづらいけど、ちょっと待ってて。必ず言うから。』
って伝えておくと良いかな。
……はい。
待ってもらう、っていうのは大事なんですかね……?
あー、大事ですね。
もちろんね、察して『これ? あれ?』って言ってあげるのももちろん大事なんですけど、一拍待ってあげるのは重要ですね。
まあ、あんまりにも時間が掛かってイライラするようだったら、『これでしょ?』って手を差し伸べてあげても良いけど。
本人と話していると、話しようとしても言いたいことが言えなくてイライラしてしまって、『ああっ、もうっ!』ってストレスになっているようなんです。
あはは。
まあそういう時もありますよね。
だから、全く手を出すなとは言わないけど、適度に手を貸しつつ本人の自主性に任せて、あんまり病人病人しているのも精神衛生上よくないですからね。
はい。
わかりました(^^;
とアラヤちゃんが答え、会話のリハビリについての話は終わることになった。
その後は、今後の受診スケジュールやMRI検査の同意書についての説明など、事務的な内容をこなし、この日の診察は終了することになったのだった。