抗がん剤、吐き気止め、下剤、抗てんかん薬……。
薬嫌いのアラヤちゃんに、雨あられのように薬を処方すると宣言する三谷医師。
そして三谷医師は、薬嫌いのアラヤちゃんにちょっと訃報となる話をさらにしてくるのだった。
てんかん発作が現状ではほぼ毎日起きているんですが、これはできれば月に1回くらいまでに落としていきたいんですね。なので、来月の受診までのてんかんの様子次第では抗てんかん薬の量を増やすことを考えたいと思います。
てんかん発作が起こることもストレス。てんかん発作に怯えるのもストレス。
だからと言って薬を飲むのもちょっとしたストレスになってるアラヤちゃん。
次の受診までに発作が減らなければ、薬が増えると宣言された時にも、きっとストレスを感じたんだろうなぁ、と予想する私なのであった。
……ところで、お仕事とかって何か考えてます?
いやあ、考えてないです。
うーん……。
中々なんせ、お仕事(僧侶)の内容がなじみがないものなので、私もこう、どれくらいの能力があればお仕事をこなせるのかが、若干想像がつきづらいものがあるので……。
と、歯切れの悪い三谷医師。
でも、確かに僧侶の仕事なんて一般の人には想像できないし、何やってるのかもわからんし、何ができないといけないのかも分からないよなぁ、と理解する私であった。
ちなみに、脳腫瘍が発覚する前のアラヤちゃんは、基本的にお施主さん(依頼主)から直接法要やご葬儀の依頼を受けて、自分で運転して行って法要やご葬儀を執り行ったお布施で生計を立てていた。
だけど、てんかん発作で車の運転ができなくなり、また失語症の影響でお施主さんとのコミュニケーションや法話がスムーズにいかなくなってしまったので、ご依頼があってもそれらをお断りせずにはいられなくなってしまっていた。そのため、無収入の状態がずっと続いている。
あの……
と言い、アラヤちゃんはとあるものを三谷医師に差し出した。
それが、紙にかかれたこれ↓だった。
お、おお……すごいな。
ふつーの感想を述べてくれる三谷医師w
そんな三谷医師にアラヤちゃんはこう言うのだった。
えーっと。
これを描けるようになるには、何か月かかりますか?
これー、……ご自分でかいた?
はい。
すごい。
すげーな、といったびっくりした表情を三谷医師は浮かべた。
え、これってお坊さんの仕事なの???
いえ、彫刻……美術の仕事です。
ですよね、もともとの。
元々彫刻家として活動していて、その後僧侶になったことをちゃんと覚えてくれていた。
でもー……、仏教的な要素も関係しているの?
この漢字の部分のやつとか。
あのー、二十八宿っていう……
そしてアラヤちゃんは止まってしまった。
どうやら説明する言葉が出てこなかったようだ。
えーっと、仏教の中での占星術みたいな……。
その象徴の一つなんですけど、そういったものをかいて、印刷というか量産して、販売するというのをちょっと考えているんですね。
はー……、ほうほう。
脳腫瘍が見つかる前、アラヤちゃんにある程度やる気があった頃、やろうとしていたことだった。
仏教には宿曜経という占星術のようなものがあり、生まれた日にちと時間によってその二十八の宿(星座)が割り振られるというのだ。そして、その自分の宿によってある程度の宿命が割り振られている。
その宿の中の一つ、12番目の角宿についてかいたのが、
になるのだ。
この出来映えに感心してくれて、さてどれくらいでこのレベルを取り戻せるのだろうかと思案する三谷医師。
そんな三谷医師をさらに驚かせる発言を、アラヤちゃんはするのだった。