抗がん剤の治療はやるのは当然だとして、同時に放射線治療もした方が良いのかどうか、三谷医師は次のように言ってきた。
悪性度が高く、腫瘍の増殖スピードが高い場合は、迷っている暇なんてなく早々に放射線治療をするけれど、鹿角さんのように悪性度が2くらいの場合は我々としても一番悩ましいところです。実際悪性度2の脳腫瘍に対して放射線治療をいつしたらいいのか、というのは結論が出ていません。
早めに放射線をやってしまって腫瘍を早いうちから叩いてしまうんだ!という医師もいれば、脳の高次機能への影響を考えて再発してしまうまでは待つ医師もいます。
ここはどっちが正解と言うのはありませんが、早々に放射線で腫瘍を叩いておいた方が長生きするはずだ、と言ってすぐに放射線治療をする先生もいる一方で、我々のように、放射線をかけずにいれば5年後に出来ていたことが、放射線をかけるとどうなるか?ということを考えて、早急にはやらない医師もいます。
どちらなのかは、その医師の哲学と患者さんの希望次第になるんですね。
そして三谷医師は再度、「放射線治療はいつやった方が良いのか、その最適解はまだ分かっていない。」と、改めて告げてきた。その人その人で様々なケースがあるので、何が最適かは判断に難しいらしい。
放射線治療をせずに抗がん剤だけで治療した方が元気で過ごしているね、という一方で、放射線治療を早くにやった人よりも早くに再発する人も間違いなくいる。その場合は再発した時点で放射線をかけるといったん腫瘍は落ち着くが、またいつか再発をすることにはなる。
そういうパターンの人と、最初から放射線治療をしていた人がやがて迎える再発の時期を経て、いつかくる寿命の終わりを考えた時、どちらの方が良かったのかは誰にもわからないのだそうだ。
ただ、少なくとも再発の時期を迎えるまでは抗がん剤だけの人の方が、それまでの間の期間は快適だと私たちは考えています。
そして、今現在もっとも困っている毎日のように起こるてんかん発作も、抗がん剤を飲むことで腫瘍が小さくなるなどの変化が出てくれば、良くなっていくこともよく見られることなのだ、と三谷医師は付け加えてきた。
というわけで、まずは抗がん剤だけの治療をおすすめするんですが、それで大丈夫ですか?
腫瘍の摘出手術の時もそうだったが、「こういう治療をするぞ!」と一方的に押し付けず、治療法を提案し、それを患者が了承したら実施する、というのが今時の医療界の常識らしい。(そうじゃない医師もいるだろうけど。)
抗がん剤の服用をするかしないかの本人の意向、放射線治療を今はやらないでおくかどうかの本人の意向、を確認された。
いやあ、放射線は副作用を考えると出来ればやりたくないので、先生がご提案下さった方向がありがたいかなぁ、と……。
アラ父がみんなの意見を代表してそのように答えた。
三谷医師はにっこりと「そうですね。」と頷いた。
ただ、どこかのタイミングで打って変わって、今までやらないって言っていた放射線を勧める日がいつか必ずやってきます。
逆に言うと、そういう懐刀を用意しながら治療を勧めていくのがいいのかな、と思います。
ということで、抗がん剤は服用するが、放射線治療はいったん見送ることで治療方針が固まった。
ちなみに、いくらこちらが抗がん剤治療を希望していても、本人の身体のコンディションが良くないと抗がん剤が服用できないようで、三谷医師から血液検査の結果が問題ないので、抗がん剤治療は問題なく進められる旨を説明された。
※白血球や血小板の数、またC型肝炎に罹患しているかなどの条件があるらしい。
抗がん剤(テモゾロミド)は1回260mgを5日間連続服用したら23日間休薬する、を1クールになるそうだ。そして、それを基本的には一生続けるのだと言われた。
また、次回の受診時の血液検査に問題がなければ、抗がん剤(テモゾロミド)は増量する予定であることを言われた。
その他に、この抗がん剤は吐き気が起こりやすいので吐き気止めの薬と、便秘になりやすいので下剤が処方すると言われた。
抗がん剤、吐き気止め、下剤、抗てんかん薬……。
薬嫌いのアラヤちゃんに、雨あられのように降ってくる薬たちである(^^;
そんなアラヤちゃんに、ちょっと訃報となる話を三谷医師はしてくるのだった……。