おずおずと私は問い掛けた。
あの、色々調べていて「自家がんワクチン」というものを知り検討しているのですが、先生のご意見を伺えないでしょうか?
私がそう訊ねると、三谷医師の第一声は、
んーーーーーーーー……。
だった。
やはりどうも難色を示す治療法らしい……。
長い「んーーーーーーーー……。」の後に、三谷医師はこう言ってきた。
つくばのやつですかね?
つくば・女子医のやつ?
あ、そう(東京女子医科大学のやつ)です。
まずは治療法の確認をされた。
えーっと。まずは、あの「自家がんワクチン」が調べたのは今回の脳腫瘍とはタイプが違うであろうグレードが4の「膠芽腫」という脳腫瘍なんですね。
言葉を選んでくれているんだろうな、というのが伝わってくるくらい、ゆっくりと丁寧に話してくれた。
そして、生物学を勉強してきたのでなんとなく伝わってきたのだけれど、「自家がんワクチン」が検証したのはあくまでグレード4の「膠芽腫」であって、それ以外の脳腫瘍では検証を公式に発表してはいないのだよ、と三谷医師は言いたかったようだ。
良くも悪くも、今回アラヤちゃんが頭に抱えている腫瘍は「膠芽腫」ではないと考えられているから、発表されている効果がアラヤちゃんの脳腫瘍のタイプに効くかは未知数と言えるのだろう。
それから自費の診療になるので、「自家がんワクチン」を実施する病院次第ではどんな病気でもいいですよ、という可能性はあると思います。
裏を返せば、病院によっては「費用を考えたら、あなたは自家がんワクチンはよしておいた方がいいんじゃないか。」というところもある状況なのだ、と言いたいのだろう。
そして、実施させてくれる病院があるとしてですけど、自費治療はどうしても全額自己負担になるので、経済的な負担はかなり大きいかな、と思います。
この部分は細野医師も気にしていたけれど、三谷医師も費用面をかなり気に掛けてくれた。
それで効果に関してですけど……。少なくとも僕らの理解としては、ですけどね。
100人なら100人、1000人なら1000人で試して、やった人とやらなかった人で明確な差があるね、というプロセスを踏んで採用されているのが治療薬になるわけですね。なので、これから私たちが提案していく治療法(標準治療)というのは、やはりそういうプロセスを経てきているわけです。
そういった治療法に比べると、明確な差が出なかった治療法になるんです。だから、こちらから勧めるってことはないです。それから、「自家がんワクチン」が一番良い治療法ってこともないと思うんです。
ただ、「自家がんワクチン」は自分の腫瘍を処理して体内に打ち込むだけなので、こちらが提案する標準治療を邪魔するってこともないです。なので、やりたいっていうのであれば異議を申し立てることはしません。
ただお金がもったいないな、って思うだけ。
そして、中にはそんな人もいるのだろうからだろうけど、こんな風に釘を刺された。
だけど「自家がんワクチン」だけをやって、それ以外の標準治療は受けない、っていうのであれば話は別で、それはあんまりお勧めできない。
やっちゃだめだとは言わないけど、それをやるのであれば、良く考えるべきかな、って思います。
そうすると、手術後は抗がん剤と放射線治療をすることになると思うんですけど、それが落ち着いたら「自家がんワクチン」をやる分にはやぶさかではない、という感じでしょうか。
基本的に抗がん剤はがん細胞を叩くのだが、同時に本人の免疫システムにも影響が出てしまうらしい。
端的に言うと、免疫が低下するリスクがあるらしいのだ。
「自家がんワクチン」というのは、免疫システムを利用した治療法なので、抗がん剤治療をしている間は避けた方が良いという説明があったのだ。なので、もともと私としては抗がん剤治療が落ち着いてから、「自家がんワクチン」をトライした方が良いだろうな、と思っていたので確認の意味を込めて訊いてみた。
そうですね。その場合は、どちらかというと既存の治療……つまりこちらがやりたい治療が、免疫に影響を与えるという点でそっち(自家がんワクチン)の治療の邪魔をする、ってことになると思います。
なるほど。
分かりました。
ただね、と前置きをして三谷医師はこんな見解を言ってくれた。
アラヤちゃんの脳腫瘍は、期待を込めてという意味もあるけれど「乏突起神経膠腫」ではないかな、と思っているのだそうだ。
※全然根拠はないので希望を込めての予測にすぎないけどね、と念を押されたけど。
(↑の表を見ても、乏突起神経膠腫は星細胞腫よりも5年生存率が高い。)
そして、乏突起神経膠腫は比較的抗がん剤や放射線治療に対する反応が良い(効果が高い)ので、「自家がんワクチン」をやるよりは普通に標準治療を受けた方が良いとは思うよ、と付け加えてくれたのだ。
標準治療をやらずに「自家がんワクチン」だけを、というつもりはないので……。
……はい、分かりました。なるほど。。。
まあ、追加でってことであれば止めはしないけど、逆に「自家がんワクチン」をやってるクリニックに行ってみるのもいいかもしれないね。
最近だと「銀座並木通りクリニック」が窓口になってるけど、あそこの先生はもともと東京女子医大出身でグリオーマをやってて詳しいんで、多分勧めないんじゃないかな、って気もちょっとするんだけどね。
あー……。
ちなみに、銀座並木通りクリニックはこちら↓
ま、わからないけどね。
後でクレームを言われないようにするための大事な発言、「ま、わからないけどね。」を付け加える三谷医師w
病気に対する基本的な理解があった上での希望であれば、尊重するつもりなのでね。
なんか高いお水飲んで、それだけで治す!!!とかでなければwww
アラヤちゃんがクスリと笑うw
つられて私も笑ってしまった。
霊感商法みたいなやつだよねwww
医学的なバックグラウンドがない治療ではないので、そういったのをやりたいというのであれば、まあいいかな、とも思いますよ。
分かりました(^^)
細野医師との言い方の差は一体何なんだろう………( = =) トオイメ目
三谷医師の言い方だと受け入れやすいし、納得できる。
この時、私とアラヤちゃんの中では
「自家がんワクチン」はいったん見送り
という方針がそれぞれの心の中で決まっていたのだった。
大丈夫かな?
他は何かない?
という三谷医師に、アラ母が「あのー……」と問いかけた。
手術の後はどんな感じになるんでしょうか?
術直後は、まあ覚醒下ができるかどうかにもよりますが、機能は一段確実に下がると思います。
右手足が動かしにくかったり全く動かなかったり、言葉に関しても出てこなかったり理解が鈍かったり。
で、それが神経として残っていると時間の経過と共に復活していきます。
但し、復活に掛かる時間というのはもちろん個人差もあります。またどこまで復活するか、という天井も人によって変わってきます。
覚醒下手術をすることでその天井を下げない、つまり今できていることをできるままに、というのを目指しますけど、脳の機能を数値化することは出来ないのでどの程度復活したかの評価がし辛いんですよね。もともとと大きくは変わらない程度まで回復するとは思いますけど、もちろん今できていることがやり辛くなる可能性もあります。
そう説明した上で、三谷医師は病気の種類にもよってくると言った。
摘出して病理検査をした結果、悪性度が高く早めに治療をした方が良いね、という場合は術後の入院中にリハビリと並行して放射線治療なりをしていくが、逆に乏突起神経膠腫のように悪性度が低いタイプだった場合は、リハビリ専門の病院に転院して3か月くらい濃厚なリハビリをした方が術後の回復の上げ幅は大きくなるのだ、と。
リハビリの病院でしっかり脳機能を回復させてから、残った腫瘍の治療に移る方が有効なケースもあるんだそうだ。
それから、アラヤちゃんが手術当日のタイムスケジュールについての質問をして、手術は朝8時前後にスタートして、早ければ16時くらいに終わると言われた。
また、術後1週間程度で手術の傷は治ってくるので、リハビリのことなどを考えなければ術後一週間程度で退院できる状態になるそうだ。
ただ、病理診断に2週間ちょっと掛かるので、悪性度が高くなければ病理診断が出るまでは県立病院で入院&リハビリをして、その後はリハビリ専門の病院に転院して3か月くらいリハビリになる、と言われた。
こうして、入院前最後の診察は終わったのだった。