鹿角家実家を訪れると、私と言う敵を迎え入れるべく臨戦態勢になっているかと思っていたご両親は、
「よく来たね。まずはお茶でも飲もうか。」
と柔和に迎え入れてくれた。
4人でお茶を飲み、気候の話(無難な話w)をしてワンクッション置いたのだった。
しばらく談笑を続ける4人。
そして出ない自家がんワクチンの話(^^;
私は切り出した。
あの、自費治療の自家がんワクチンの話をしても良いですか?
意を決して、私はそう言った。
そして凍り付く空気。
そうね。その話をしに来たんだものね。
あ、でもお茶のお代わり淹れましょうか。
気を利かせたのか、空気を読まなかったのかw、あるいは聞きたくない話をするまでの時間を、わずかにでも稼ぎたかったのか、新しくお茶を淹れ直すアラ母。
新しいお茶が出てくるのを待ったため、しばらく沈黙が流れた。
自家がんワクチンの資料をカバンから取り出し、アラ母がお茶を淹れ直したタイミングで、私はアラ父に訪ねた。
自費治療に反対と伺ったのですが、理由を訊いてもいいですか?
いや、反対しているわけじゃないんだよ。
ただ、効果がきちんと保証されているならともかく、効果があいまいな治療法を、そんな高額でやるというのは、もし効果が無かったら息子が騙されたようなものになる。
それは親として見過ごせないんだよ。
実際、ご近所の平原さんがね、自費治療をやったけど効果がなかったって、騙されたって、そう言っていたのを聞いているから、どうしても慎重になってしまうんだ。
確かに、そんな話を聞いていたら、親としては可愛い息子が詐偽のような自費治療に騙されたらと考えてしまい、諸手を上げて賛成できないだろうな、と思った。
平原さんがやったのは自家がんワクチンですか?
私は素朴に気になったので、訊いてみた。
いや、内容は良く知らないんだ。
でも、なんて言ってたかな……えーと……。
確か、免疫がどうとか……。
何回かやるやつらしいのよ。
どんなやつだろう……?
でも、自家がんワクチンは接種回数が2回だけだし、多分違うやつ……?
少なくとも、はっきりとは分からないのかぁ……。
そして私は、ご両親の気持ちと心配も理解できる、と伝えた。確かに安い金額ではないし、これが騙されていたら、不要な治療に大金を支払うことになってしまう、と。
ただ、自費治療にも色々なものがあって、私が見つけたものは自分の生物学的な知識から見てもメカニズムとしては有効だと思うし、自家がんワクチンを実施している団体が発表しているデータが正しければ、確かに有効だと思えるものなんです。
自費治療の中には、確かに箸にも棒にも掛からないものがあると思いますが、全てがダメだということではないと思うんですね。
……まあ、確かにそうだね。
私が今回見つけた治療法について説明する前に、まずはこれを見て欲しいんです。
と、私は↓の脳腫瘍の患者の生存期間中央値のデータを見せた。
アラヤくんの脳腫瘍がどのタイプかははっきりしていませんが、一番良いタイプのものでも、半数の方が12年弱で亡くなっています。三谷先生は、グレード4ということはおそらくないだろうと言っていましたが、もしグレード3のタチの悪いタイプだったら、2年半で半数の方が亡くなってしまいます。
これは、摘出手術・抗がん剤治療・放射線治療というがん治療の3本柱をやった人たちでの数値です。
短ければ、貴方たちの息子は2年半で半分の確率で亡くなるのだ、と言った。
残酷なことを言っているな、と思った。
でも、妹のアラ菜ちゃんが言っていたように、ご両親は手術をしなくてもいいのではないかとさえ言っていたくらい、脳腫瘍を軽く考えている。そして、手術を受ければ完治して、天寿を全うするとさえ勘違いしているというのだ。
キツくても、現実を伝えなければならない。
言葉で言われるだけよりも、紙に印刷された資料を見せた方がきっちり理解しやすいだろうと思い、私は印刷した表を示しながら、厳しく残酷な現実を突きつけたのだった。
に、2年半で死んでしまうかもしれないのかい!?
……!
ご両親は言葉を失っていた。