うちの彼氏は脳腫瘍37

脳腫瘍奮闘記
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↑の続きです。

言語聴覚士による検査も終わり、また平常の日々が戻ってきた。
今までとは違うことと言えば、アラヤちゃんが自分の症状を誤魔化さないようになり、正直に気になる症状を言うようになってきたことだ。
りんごの皮が薄く剥けないとか、グラスをコースターの真ん中に置けないとか、細々した症状が気になるようで、その都度自分の不調を伝えてくるようになった。

一方で、暗雲が垂れ込めてきたのも事実だった。
それは、アラ父が自家がんワクチンに反対らしい、ということ。

私が仕事に行っている間に、アラヤちゃんの様子を見に来ることがあるご両親。
その時、自家がんワクチンの話が出たらしい。
ある日、私が仕事を終えて帰るとアラヤちゃんから、アラ父が自家がんワクチンに反対しているということを聞かされた。

アラ父は、人伝ひとづてに聞いた『自費治療』の効果に疑問があるためのようだ。
『自費治療』の効果に疑問を持つということ、それ自体は確かに間違っていないと私も思っている。自費治療は玉石混合ぎょくせきこんごうで中には箸にも棒にも掛からないものもあるからだ。
※玉石混合:良いもの(玉)と雑多なもの(石)が混ざって存在していること。
ただ、『自費治療』の枠に属するものの中に、石が混ざっているからといって、その全てが石なわけではない。実際、以前三谷医師から要請された『メチオニンPET検査』も自費治療だが、脳腫瘍の治療には必要だと言われたから受ける予定なのだ。

↑メチオニンPET検査の下りは、28話参照。

困ったなぁと思っている私を見るアラヤちゃんの目を見ると、どうやら私とお父さんの間で意見のギャップがあることに、本人が参ってしまっているようだった。

アラヤちゃん
アラヤちゃん

…………はぁ。

心の葛藤から出るため息を絶えず吐いている……。

アラヤちゃん
アラヤちゃん

俺は、周りのみんなが賛成でやりたい。

言葉足らずなアラヤちゃんがぽつりと言った。

周囲の人間の足並みをそろえた上で、自費治療に臨むことが本人の希望のようだ。自分の周りの人間の間で意見の相違があった場合、今まではアラヤちゃんが率先してその調整をし、反対意見の人間を説得し、結果全員一丸となって問題解決なり旅行なりに向かって行っていた。
だけど、今は違う。
今のアラヤちゃんには、他人を説得する能力が大きく欠けてしまっているのだ。自分の考えをまとめ、それを説明する能力が著しく低下しているから。
そのことが本人にはもどかしく思えているだろうし、悔しく思っているだろうし、思うようにならない憤りを抱えているようにも感じた。

想定するに、お父さんは脳腫瘍の生存期間中央値や5年生存率などの現実を知らないのではないかと思ってしまう。
また、自費治療は抗がん剤などの標準治療に+αで行うものだということを認識しているか気になる。
本人の自己負担で行うつもりの自費治療さえも反対するのであれば、私としてはショックを受ける。

とは言え、アラ父とアラ母の息子に対する愛情は紛れもなく本物だ。
愛する息子が詐欺のような治療法に騙されて欲しくない、とそう思っているのだろう。
そして、アラ父は人より賢い。贔屓目に見ても分析力・応用力・理解力に人より頭二つ分くらい秀でている。
※ちなみに、それはきちんと息子に受け継がれていて、アラヤちゃんは当時住んでいた横浜の翠嵐高校という横浜でもトップクラスの高校に合格間違いなし、と言われていたそうだ。
※結局中3の受験期に他の地域に引っ越したので、翠嵐高校を受験することはなかったけど。
※つまりは、アラヤちゃんはトップクラスの県立高校に、余裕で合格する頭脳の持ち主ということ。

それならば、きちんと説得すれば理解してくれるのでは?と私は考えた。
そこでお願いしたのが、娘であるアラ菜ちゃんだ。
あくまで他人である私が説得するよりも、可愛い娘であるアラ菜ちゃんが説得すれば、自家がんワクチンに理解を示してくれるのではないか、と思ったのだ。
幸い、事前に自家がんワクチンについて話してあり、

アラ菜ちゃん
アラ菜ちゃん

いーんじゃなーい?

お兄ちゃんのお金でやるんだし、効果があればめっけもんだよね(^^)

と言ってくれていたアラ菜ちゃんに、アラ父の説得をお願いしたのだった。

↓に続きます♪

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